写真にあるこちらの緑色の球体、なんだかご存じですか?
こちらは、杉の葉を束ねて作られてた『杉玉』と呼ばれるものです。一般的には杉玉が緑色だと新酒が出来た合図、茶色くなるとひと夏熟成させたひやおろしの飲み頃の合図として知られていますが、私たち造り酒屋にとっては醸造安全を祈願して吊るされる神聖なものなんです。
酒造りは高い所に上ったり、重いものを持ったり、また醸造過程で起こる発酵により酸素が薄くなる環境が作られたり、と危険を伴う作業です。ですので昔から造りを始める前に、今年も安全に美味しいお酒が造れますようにとの願いを込めて醸造祈願祭を行ってきました。
今代司酒造の杉玉は奈良県桜井市三輪にある日本最古の神社のひとつ、大神神社(おおみわじんじゃ)で作ったものを授けて頂いています。
大神神社は杉のお社として有名な神社です。古来より、真っ直ぐと天に向かって伸びる姿から、神様は杉の木を伝って天から降りてくると信じられています。大神神社のご神体山にも多くの杉が自生していて、今代司に祀ってある杉玉にも大神神社の神様が憑依し、私たちの安全を見守って下さっていると信じています。
杉の木が有名な大神神社ですが、実は酒造りの神様を祀っている数少ない神社でもあります。お酒に酔っている間は神様が憑依しやすい状態と考えられているため、神様と人間を繋ぐ道具として、お酒は神事に欠かせない重要なアイテムだったようです。
ここで編集者の疑問です。
酒蔵で使われる道具は杉を材料にしているものがとても多いのです。例えばお酒をかき混ぜる櫂(かい)と呼ばれるパドルのような道具。それから今ではホウロウ製のタンクが主流となっていますが、酒造りに使われる大きな桶も杉が原料です。もちろん、今代司にある大きな木桶も杉の木から出来ています。
何故でしょうか?
あくまでも推測ですが、一つは神事に使う道具であるお酒を穢さないように杉を使って大切に作ってきた。もう一つは、水に強く、殺菌効果が高いという杉の性質が酒造りに適していたのではないかと考えています。
檜もその代表格ではありますが、仕込みの段階でお酒に強い香りが付いてしまうのを嫌ったのかもしれません。
大神神社の杉玉は酒蔵見学で見ることが出来ます。
見つけたら、ぜひ神事や杉玉の色合いに思いを馳せてみて下さい。